■マコの傷跡■

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chapter 37



~ chapter 37 “引越し” ~ 


私が26歳になった頃、母親が「マンションを買う事にした」と言って来た。
同棲していた彼との間で私は1度妊娠し、産む産まないを考える前に流産した。
その手術の時に家族の同意が必要で、仕方なく母に打ち明け病院に来てもらった。
ベッドの中から母を見た途端に涙が溢れた。母はあの時何を想っていただろう。
私はわざわざ来てくれた母に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
その事があってから彼をよく思っていなかった母は、
私に、自分が買うマンションで良ければ、一緒に暮らさないかと言うのだった。

妊娠した、とわかった時どうするか考える間もなく流産だったが、
そうでなかったとしても私は産まなかっただろうと思う。
妊娠をキッカケに、彼との結婚までを真剣に考えた時、やっぱりそれはありえないと思った。
感謝の気持ちを返して行く愛情もありかな、と思っていたが
それはもらう物があって初めて返す物が生まれるんであって
やっぱりそれは愛ではないのだと思った。


母から話があったのは“彼とはもうだめかも”と思っていた時だった。
母の申し出を、私は受けたかった。
もう1度、母と一緒に暮らすのも悪くないかもしれない。

彼はなんと言うだろうか?
それに父は今更、私が母と暮らす事をなんと思うだろうか?

当たり障りない関係で彼との生活は続けていたが、流産してから明らかに彼と私の間には溝があった。
彼に母のマンションの話しをすると「どっちでもいい」という様な答えだった。

父に相談してみると、父はいい顔をせず、それでも
「真琴はもう大人だから、だめとは言わない。」と言った上で、
「でも、今一緒に暮らしたらお前が結婚する時に母親は式に出席したがるだろう。
お母さんを呼ぶのなら、お父さんはお前の結婚式には行かない。」と言った。

結婚の時の事はその時考えればいい。
まだそんな予定も、そうするつもりの相手も居ないのだから。
私は母のマンションに引っ越す事にした。

彼は実家に戻ると言う。私の引越しの日、彼は家に居なかった。
「先に引っ越します。○日にここを引き払うつもりなのでその前に引越しをしてください」
彼にはそう書置きを残した。
私は運送屋時代の仲間数人に頼んで引越しを手伝ってもらい、母のマンションへと越した。

引越しが済んで数日後、彼から「もう終わりにしよう」と言われた。
そう言われる前から、すでに私達は終わっていた。


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